LCCとは?JALやANAとの違いや安さと安全性について解説
2025年08月12日

LCCはなんの略でしょうか。ロー・コスト・キャリア、つまり格安の運賃が売りの航空会社のことです。空港でジェットスターやピーチと書かれた飛行機をみたことがないでしょうか。これらが日本のLCCです。
LCCに乗る意味はどこにあるのでしょうか。
LCCの特徴は安さだけではありません。そこでJALやANAといった超大手や、LCCとJAL・ANAの中間に位置する中堅航空会社と比較しながら、LCCの実態を紹介していきます。
LCC(ローコストキャリア)とは?

まずはLCCがどのような存在なのか、みていきましょう。
LCCのシェア、11年で6倍
LCCの勢力を解説します。LCCには、国内の空港間を飛ぶ国内線と、国内の空港と海外の空港を結ぶ国際線があります。そのシェアは以下のとおり。
■LCCのシェアの推移
| 国内線LCC | 国際線LCC | |
|---|---|---|
| 2012年 | 2.1% | 5.2% |
| 2023年 | 13.0% | 32.7% |
2023年の国内線のLCCのシェアは1割強にすぎないわけですが、しかし2012年の2.1%から6倍になっています。成長スピードがとても速いわけです。
国際線のLCCについては2023年ですでに3割超のシェアを獲得していて、2012年からの成長スピードはやはり6倍です。
国土交通省はLCCが登場した背景について、
- 航空事業への参入障壁の低下(参入しやすくなった)
- ビジネス旅行市場の性質の変化
の2つを挙げています。
参入障壁の低下は、規制緩和と、インターネットの普及によって航空券の販売コストが下がったことで起きました。
そして旅行客が価格を重視する傾向が強まり、安さが売りのLCCが支持されるようになったのです。このトレンドを受け、旅行代理店が航空会社に安価な運賃を要求するようになりました。LCCは安い航空券ニーズによって生まれたといえるでしょう。これがビジネス旅行市場の性質の変化です。
日本のLCCは5社、いずれもJALかANA系。国際線オンリーも
国際線LCCでは、海外のLCC(会社)の飛行機が日本の空港に飛んできているわけですが、ここでは日本のLCCについて解説しています。日本には2025年現在、次の5社のLCCが存在します。
| 拠点空港 | 使用機材(飛行機) | 従業員数 | 運行路線 | |
|---|---|---|---|---|
| ジェットスター ・ジャパン株式会社 | 成田、関西など | エアバスA320など22機 | 1,035人 | ・成田=新千歳 ・関西=台北など国内外22路線 |
| スプリング ・ジャパン株式会社 | 成田 | ボーイング737など9機 | 521人 | ・羽田=新千歳 ・成田=ハルビンなど国内外13路線 |
| 株式会社ZIPAIR Tokyo | 成田 | ボーイング787、8機 | 821人 | ・成田=仁川 ・成田=ホノルルなど国際線10路線 |
| ピーチ ・アビエーション株式会社 | 関西、那覇、成田など | エアバスA320など35機 | 2,045人 | ・成田=新千歳 ・関西=上海など国内外40路線 |
| 株式会社エアージャパン | 成田 | ボーイング787、 78機(ANAと共通) | 1,299人 | ・成田=バンコクなど国際線3路線 |
かつてバニラエアというLCCがありましたが、この会社はピーチと統合しました。それで従業員数でも飛行機の台数でもピーチが最大規模のLCCになっているわけです。
ジェットスター、スプリング、ZIPはJAL系です。ピーチとエアージャパンはANA系です。
そしてZIPとエアージャパンは国際線のみで、国内線はありません。
LCCと「JAL・ANA」「中堅」との違いは?

日本の航空会社は、大手、中堅、LCCの3つのグループにわかれます。
大手は、2強のJALとANAです。中堅はスカイマーク、エアドゥ、ソラシドエア、スターフライヤーの4社です。この6社のことを国土交通省は「主要6社」と呼ぶことがあります。
JAL・ANA、中堅、LCCの違いは運賃の価格とサービスの充実度で、その順番は次のとおり。
●運賃の高い順:JAL・ANA>中堅>LCC
●サービスの充実度の順:JAL・ANA>中堅>LCC
つまりLCCは、低サービスでコストを下げているので運賃が最も安い、といえそうです。
この構成をみると、LCCのビジネスモデルがみえてきます。JAL・ANAは、自社では運賃の安さで中堅に負けてしまいます。しかしそうだからといって、一部のJAL・ANA便のサービスの質を極端に下げて運賃を下げてしまうとブランドに傷がついてしまうでしょう。そこでLCCをつくったり、LCCに出資したりして、中堅よりも低サービス・低価格を実現したのです。
LCCが安い理由は?

LCCがどれくらい安いのか。航空運賃の価格は時期によっても、買い方によっても異なるため正確に「こちらのほうが安い」と明示することはできないのですが、目安はあります。
そして安いものには安いなりの理由があります。
賢く航空券を買えばJAL・ANAの3分の1、中堅の半額
羽田=新千歳(北海道・札幌)の片道運賃の目安は、JAL・ANAが20,000円台後半、中堅が10,000円台中盤、LCCが7,000円程度となっています。
したがってLCCの航空券を賢く購入すれば、JAL・ANAの3分の1、中堅の半額で飛ぶことができます。
もちろんLCCは路線が限られているので「日本全国JAL・ANAの3分の1の価格で旅ができる」とはいえないのですが、それでも自分が行きたい場所にLCCの路線があればかなり格安に旅行することができます。
安かろう、悪かろうではない
LCCのあまりの安さに、かえって不安を感じてしまう人もいるようです。しかし、安い理由を知れば納得して搭乗できるはずです。
ここではサービスの質以外の理由を紹介します。サービスの質はLCCの肝になるので、後段で詳しく解説します。
LCCの運賃が安い理由(サービスの質については別途解説)
- 機材(飛行機)を工夫しているから
- 座席が狭いから
- 人件費を削減しているから
- 稼働時間を工夫しているから
- 本社を東京に置かないから
LCCは、安かろう悪かろうではなく、これだけの理由があるから価格を抑えることができているのです。この5項目はLCCの実態を知るうえでとても重要なので1つずつ解説します。
理由1:機材(飛行機)を工夫しているから安い
LCCでは使用する複数の飛行機を同じものにしたり、種類を極力減らしたりしています。同じ飛行機を使うことで整備や部品管理が簡素化されます。またパイロットや整備士は1種類の飛行機について覚えればよいので、会社(LCC)側としては教育・訓練コストを削減できます。
一方のJAL・ANAは多くの路線を持っていて、それぞれ客数が大きく異なるので、異なる飛行機を所有する必要があり、整備コストも部品管理コストも教育・訓練コストも増えてしまい、それが料金に跳ね返ってしまうのです。
理由2:座席が狭いから安い
LCCの機内は狭い、とイメージしている人は多いと思いますが、それは本当です。座席を狭くすることで1席でも多く確保して、1回のフライトで運べる乗客数を増やして稼ぐわけです。
座席が狭くなると快適さが犠牲になるわけですが、それを我慢すれば安く旅ができます。
理由3:人件費を削減しているから安い
LCCでは乗務員の人数を必要最小限に抑えています。さらにLCCの社員たちの給与水準はJAL・ANAのそれより低めです。
また地上勤務では派遣などの非正規労働者を使ったり、業務を外部委託したりして人件費を抑えています。
理由4:稼働時間を工夫しているから安い
LCCは飛行機の稼働時間を工夫することでコストダウンを図っています。
飛行機の減価償却費やリース料、整備施設の維持費、運営・販売・営業部門の人件費や事務所経費などのことを固定費といいます。固定費の額は、飛行機を多く飛ばしても少なく飛ばしても大きくは変わりません。
したがって飛行機の稼働時間を増やせば、つまり運航回数を増やせば、運航1回あたりの固定費が下がり運航コストを抑えられます。LCCに早朝便や深夜便が多いのは運航回数を増やすためです。
また早朝・深夜便は、空港使用料が安くなったり、空港が空いているのでスムーズに飛ばすことができて遅延リスクを減らせたりできるメリットもあります。
理由5:本社を東京に置かないから安い
ジェットスターの本社は千葉県成田市にあります。ピーチは大阪府泉佐野市にあります。つまり事務所賃料が高額になる東京23区や大阪市内に本社を置いていないのです。
これも固定費を減らす効果を生み、LCCそのようにして浮かしたお金を格安チケットという形で乗客に還元しています。
LCCのサービスは?

「LCCのサービスは悪い」と言う人がいますが、それは誤解です。LCCはサービスの質を意図的に下げているのであって、決して悪いわけではありません。
JAL・ANAに乗り慣れている人が、予備知識を持たずにいきなりLCCに乗ると「何もしてくれないのか」「なんでもお金を取るのか」と感じるでしょう。飲み物、食事、毛布、座席指定などが有料です。荷物も、機内持ち込みの重量制限は厳しめで、預け荷物は有料のところが多いでしょう。
また、LCCは空港の受付窓口であるチェックイン・カウンターも徹底的に簡素化しています。LCCのチェックインは原則、自動チェックイン機の利用か、オンライン・チェックイン(スマホ・チェックイン)です。これで受付スタッフを減らすわけです。
また、予約の変更やキャンセルに高額な手数料がかかることがあります。
何かしてもらいたければ追加料金を支払う、これがLCCのルールです。
LCCのマイルの仕組み

LCCにも飛行マイルに応じたポイント付与のサービスがあります。マイルで貯めたポイントは、航空券や預け荷物の有料分、座席指定料などに使うことができます。
また、実質的な親会社であるJAL・ANAのマイルとの互換性があるLCCもあります。
例えばジェットスターは、独自のマイル・サービスがあるだけでなく、JALマイルへの変換が可能です。特定の運賃でジェットスターに乗ると、JALマイルが30%貯まります。
またピーチでは、ANAのマイルをピーチのポイントに変換できます。ただしピーチのポイントをANAマイルにすることはできません。
LCCの安全性は?

LCCがJAL・ANAや中堅より安全性が劣る、ということはありません。日本の空を飛ぶ飛行機は、航空会社の規模に関係なく同じ基準が適用されるからです。
すべての航空会社は、航空法に基づく安全審査や監査の対象となり、その内容は厳格です。例えば、運航開始前に厳しい審査を受けなければなりませんし、整備について体系的なルールを定めなければなりません。
また、運航管理施設への検査、安全検査、立ち入り検査、安全管理体制への定期的な監査も、どの航空会社にも同レベルのものが実施されます。
LCCはコストダウンを徹底している会社ですが、安全面についてはコストダウンしていません。それは、安全コストを削ることができない仕組みになっているからです。
LCCについてのまとめ
LCCがどのような航空会社で、どのようなサービスを提供しているのか紹介しました。LCCについては多くの人が「JAL・ANAよりだいぶ劣るが、格段に安い」というイメージを持っています。
格段に安いことは歓迎できますが、「だいぶ劣る」点は気になると思います。この記事で、どれくらい劣るのか理解できたのではないでしょうか。
快適な空の旅を望んでいる人や、乗務員や地上職員に「あれもこれもして欲しい」という人には、LCCは苦痛に感じるでしょう。
しかし、「安全性さえ確保されていればサービスがどれだけ劣っていてもよい」「とにかく安く旅をしたい」という人にはLCCはうってつけの飛行機といえます。
